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杉並病被害の風化と後世への伝達の難しさ

 Cinii(NII学術情報ナビゲータ)は、論文、図書、雑誌や博士論文などの学術情報を検索できる、フリーのデータベース・サービスです。その CiNii Research でフリーワード「杉並病」を検索したところ、書籍2件、それ以外44件がヒットしました。このうち書籍は当ホームページの「参考書籍」で紹介いたしました。

 

 書籍以外の44件について注目されるのが、2013年から9年間全くデータがなく、2022年になってようやく「廃プラスチック(2)廃プラリサイクルと健康被害問題 : 杉並病と寝屋川病から化学物質の発生を読み解く(1)」との学術情報が報告されたことです(鎌谷 2022. 環境施設,167,40-48)。この情報はネットでフリーにダウンロードできないので内容は未見ですが、当ホームページ同様、杉並病と寝屋川病を同列に捉えている点が興味深いところです。

 

 そして最新の学術情報が、「鈴木ほか 2022. 科学的知見の不確実性と予防的アプローチを含む化学物質リスク管理の方向性に関する考察—過去の公害事例を素材として—,環境科学会誌, 35,338-354」です。この文献は下記からフリーにダウンロードできます。

 

 科学的知見の不確実性と予防的アプローチを含む化学物質リスク管理の方向性に関する考察—過去の公害事例を素材として—(J-STAGE)

 

 以下の文章はこの文献をダウンロードした上でお読み下さい。

 

 341頁右段中程に、「表3によると、杉並病については、1996年に住民から健康不調の訴えがなされた最初の科学的知見において、同じ時期に建設された不燃ごみ中継施設の杉並中継所の操業開始時期との関連性もほぼ見えることから、地域性については当初から認識されていたと思われる。」と、杉並病に関する何冊かの書籍が出版されてから20年も経っているのに、書籍に書かれた情報が無視されていることが分かります。

 

 当ホームページ「参考書籍」で紹介した川名・伊藤(2002)「杉並病公害」の第7章では、当時、新宿中継所でも杉並病同様の健康被害が起こっていたことが記されています。つまり「地域性」の問題ではなく、「不燃ゴミを圧縮する」という施設の構造自体が問題だったのです。

 

 表3に書かれた内容はこのように当時の実態とはかけ離れた記載をリスト化しているのですが、最後は「2022.11.6 東京都は公調委の原因裁定を受けて損害賠償制度を設置」で終わっています。そして著者らは「その後、原因物質についての論争が続くが、健康被害が収束したこともあり、原因物質は確定されないまま現在に至る。」と書いています。

 

 健康被害は収束したのではありませんよね。しかし杉並病発生後約20年後にはこのような論文が発表され、これが公式見解の追従となります。

 

 この文献の最初のページに著者らの所属があります。国立環境研究所、環境省が所属の方がいます。つまりこれら組織の見解とみなしてよいでしょう。

 

 このホームページが寝屋川病関係者にブログ記事を投稿していただいているのは、このような背景があります。杉並病については、被害者の多くが既に声を上げることさえできない窮状に陥っています。発生初期に移住された方も多数おられます。なので発生した頃にはなかったインターネット環境が整った現在、被害者はネットで発信することさえ思いつく余裕はなく、実態は闇に葬られたままです。寝屋川病ならまだ記憶が残っている方が多いだろうと思ったのですが、当時を思い起こして情報発信してくださっているのは、いわゆる高齢者だけでした。

 

 化学物質による健康被害はそういうものだと、改めて思いました。一番影響を受けやすい子ども達は発育期に影響されるので、成人してから抵抗する力を、曝露した時点で相当そがれています。そして被害発生時に成人だった方々の中に化学物質が原因と推定できる人がいる確率は、日本の大学学生の理系比率、その中の化学比率からすれば、極めて少ないと想像できます。幸運なことにそういった方が被害者の中にいても、被害者自身がその方が何を言っているのか完全には理解できず、ましてや行政や司法は文系がほとんどで、およそ理解できる能力はないでしょう。

 

 そんな中で、当ホームページは40代の若手の方が実質的な運営をして下さって、その感性で全体をまとめてくださっています。

 

 このホームページの声が、今も化学物質汚染に苦しむ全国の方々に届きますように…